東京から山梨に向かう道は二つの峠を越えていく。小仏峠そして笹子峠。小仏峠は江戸時代に盛んに利用された山道と、明治にできた南へ大きく迂回する車道、そしてトンネルで峠の下を穿つ鉄道と高速道路で向こう側へと抜けられる。峠へと通じる山道には関所があり、古くからの集落があり、お豆腐屋さん、梅園、釣り堀、ツリーハウス、滝修行の場もあったりで、小さな旅の気分が味わえる。
明治にできた車道は普通のカーブの多い峠道。峠の向こうはその後に改良された別ルートになっていて、明治の頃の廃道が残っている。森に戻り沢に流され、道の形だけを残している状態だけれど、丸太の橋を渡ったり、道の上に盛大にオタマジャクシが泳いでいたりして、冒険的な楽しみがある。
高速で行くとトンネルであっという間に向こう側へ抜ける。どの道も辿り着く場所は同じ。さらに次の場所へと道は続いている。旅の目的は文字通り目的地に着くこと。峠に限らず図太い直線的なトンネルが数多く掘られている。ナトリウム色に照らされた起伏の無いのっぺりとした道で、地中でも空中でもひたすらに走り続けて目的地に到着する。ネットで調べれば移動すらしなくていい。すべてわかっている。もう行かなくていい。見なくてもいい。誰かの感想を消費するだけで十分わかった気がする。
古い道を歩いていると丁寧に祀られた仏様を見つける。昔の人のじっくりとした仕事に和み、仏様に見守られている道のありがたさを思う。私のいま住んでいる集落でも年に二回、道作りという行事がある。見えないものを辿るように作られた道の影が、まだそこには残っている気がする。